■兵庫の商業  (NO.69)
 昨年も一度ゲストに書いてもらいましたが、今回は長らく兵庫県のひょうご産業活性化センターで商業支援シニアマネージャーをされていた志賀公治(しがきみはる)さんに最近の商業事情について書いていただきました。では、志賀さん、よろしくお願いします。

 三月まで、ひょうご産業活性化センターで商業支援シニアマネージャーを五年間、勤めさせていただきました。その中で感じたことは、兵庫県は広いということです。当然、大阪府も和歌山県、京都府等の府県も広いのですが、兵庫県は南北だけなく東西にも拡がっています。
 それぞれの地がそれぞれの環境に置かれていることから、地域独特の風土や慣習を持っています。商業にとってはこれが立地環境として事業に大きな影響を与えます。商業はよく「立地産業」といわれますが、経営的にはこれを「商圏」という概念として捉えることが適切であり、製造業にはないものです。
 関西ではもっとも小さい大阪府でも北端の能勢町と南端の岬町では当然違いがありますが、兵庫県に於いてはこの比ではありません。都市化している神戸・阪神間とその郊外、日本海側の豊岡、西側の赤穂、その奥の佐用等々、さらに淡路島がそれぞれに違う環境下にあることから、そこにある商店街、地域商業も違うものとして成り立っています。
 そこに全国規模の大型店やチェーン店が進出してきたわけです。これらはビジネスとして成り立つポテンシャルがある地に出店し、商店街・地域商業に大きな影響を与えました。地方や中山間地では商店街そのものが消滅したところもあります。
 これは地方だけでなく都市でも起きています。今後、人口が減少し高齢化がますます進むことを考えると、全国規模の店がより人が住む都市に集中してくることは必然ともいえ、競争は激化することが予測されます。
 他方、この全国規模の店を受け入れた消費者がいたことも事実です。これは必然ともいえます。これらの店は流通の先進国であった欧米のチェーンストア理論などをベースに開発された業態であり、時代と消費者の変化を前提に考えられたものだったからです。その全国規模の店はその後も企業として、この変化を捉えながら次々と新たなビジネスや業態を開発し続けています。
 それを目の当たりにしている消費者からすると、遅々として変わらない商店街や地域商業は旧態依然のものとして映り、魅力の乏しいものとなったといえます。当初、これらは大型店(全国規模店)と中小店(商店街・地域商業)との競争として捉えられましたが、その後起きたことは大型店同士の競争であり、現在ではこの大型店同士の競争に中小店が巻き込まれています。
 今後も大型店は、時代と消費者を捉えながら変化します。商店街・地域商業が現状のままということでは、消費者に受け入れてもらえないでしょう。ただ、大型店にもできないこと、不得意なことがあります。中小店はそれを見いだし、消費者に魅力として訴求する必要があります。
 そのような中で、商業・商店街の活性化としてでてきた事業が、「100円商店街」「街バル」「まちゼミ」です。これらは個店にスポットを当てた取り組みです。大型店と店数や業種揃えという集積力で競っても、商店街は勝てません。そこで、個店の魅力をアピールし、違う視点からこれらに対抗しようとした取り組みが生まれたわけです。
 ただ、個店にスポットを当てていることから各店舗を運営する商業者の努力が問われる事業でもあります。ソフト事業ですので自らの運営力も求められます。
 これらは成熟し多様化した消費者の価値観からか受け入れられており、成果がでていることから近年広く普及しつつあります。ひょうご産業活性化センターでは昨年度、この三つの事業に一店逸品運動を加えた商店街活性化事業を取り上げ、報告書にまとめました。関心のある方は参考にしていただければ幸いです。
 地域コミュニティの希薄化からも、地元に根を張って事業活動を行っている商店街・地域商業には役割があると考えます。お客様に存在を認められながら、生活に役立つものとして頑張って欲しいと願って止みません。
(2013.5月発行)

志賀公治:コンサルティング・パートナー“AUBE”代表
1955年生まれ。大阪工業大学工学部卒業後、中堅チェーン小売業を経て現職。店舗統括に長く携わり、出店企画・店長教育を担当する。現在、小売業・サービス業を中心に現場感覚のコンサルティングを実践中。各中小企業支援センター・商工会議所・企業等で商業活性化や経営革新支援、創業支援、事業再生支援、セミナー・研修講師などに従事。
中小企業診断士、商業施設士、中小企業基盤整備機構 中心市街地商業活性化アドバイザー。著書に『中小企業経営診断の実務』(TAC出版)。