■オトーリ体験
(NO.43)
宮古の泡盛
「オトーリ(お通り)」を体験してきました。オトーリって知ってますか? オトーリとは、沖縄は宮古島で古くからある宴会での習慣です。宴会が盛り上がってくると、誰かが立ち上がって「オトーリを回します」と言いながら、用意された泡盛を自分のコップに注いで口上を述べます。この口上は何でもいいのですが、主催者だったら宴会の趣旨やお客を紹介したり、最近気になることとかを喋ります。口上の間、参加者たちは黙って聞いてないといけません。口上が終わるとこの人は持っているコップの泡盛を一気飲みします。
これで終わりなら、なんてことありませんが、ここからが本番です。最初に口上を述べた人はいわば「親」になるのですが、親は隣の人にコップを渡して、泡盛を注ぎます。ここで、初めての人同士なら挨拶を交わしたり、ちょっとお喋りをします。その後、注がれた人は満たされたコップを一気に飲み干します。親は続けてまた隣の人に同じことをするのです。こうして親は次々と宴会の参加者に泡盛を注いで回るわけです。この間、他の人たちは自由にお喋りや飲み食いができます。1周すれば、最後にもう1度口上を述べて終わりです。
と言いたいのですが、それで終わらないのがオトーリの真骨頂なのです。最初の親は「○○さんにつなぎます」と言った後、誰かを指名したり、そのまま隣の人に親を回します。親になった人は、「オトーリを引き継ぎます」と言ってから、コップに泡盛を注いで口上を述べ、一気飲みしてからまた1周回るのです。これが延々と続くわけですね。10人の宴会で参加者が1度は親になるとすると、最低10回は一気飲みをしないといけない計算です。時には、「オトーリ返し」という親への返杯があるので、1回の親で参加人数分の一気飲みになります。これで参加者全員が親になると、計算するのも怖いぐらい飲まなくてはいけないのです。
人数が少なかろうと多かろうと、宴会があれば必ずオトーリが始まると言います。例えば、結婚式の披露宴。どれだけ飲まされるのか。酒好きの私でも考えたくないです。でも、ご安心ください。この時に用意されている泡盛はヤカンやピッチャーに入った水割りされたものです。ストレートで飲むわけではありません。ただし、どの程度の濃さかは宴会によって様々だそうです。今回は1対3ぐらいの薄めでした。それでも、お酒に弱い人や飲めない人は大変です。酔ってしんどくなったらどうするか。その時は、黙って宴会を抜ければいいそうです。オトーリが延々と続く中、段々と人が減っていく様はおもしろい眺めでしょうね。
また、最近はオトーリのルールも柔らかくなってきているそうで、コップに注ぐ量もその人に合わせるようになっています。そのためのコップもあります(画像を見てください)。「いびっちゃ」(ちょっとだけ)、「なから」(少なめ)、「ずみ」(最高)、「やまかさ」(満杯)というマークが付いています。小さめのコップで、ここに一杯氷を入れて水割り泡盛を注いでもらうので、そう大したことはありません。これも、みんなが飲み過ぎるので、1度は島中でオトーリ禁止令が出たぐらい酒好きな文化を残すための工夫です。
このオトーリのおかげで、宮古の人たちはスピーチが大変上手です。また、初めて会う人ともすぐに仲良くなれます。ともすれば閉鎖的になりやすい島暮らしの生活術なのでしょう。
ところで、「酒を飲むために遠い島まで行って、ほんと好きやね〜」なんて言われそうですが、オトーリをするためだけにに宮古島へ行ったわけではありませんよ。その話は、また次回にでも。
(2011.3月発行)