■北野工房のまち(中央区)
(NO.52)
もっとも神戸らしい雰囲気を味わえる元町。街並みを楽しみながらトアロードを北上していくと、NHK神戸放送局の北側に、レトロでモダンな建物が見える。「北野工房のまち」だ。
1908年に開校した前身の旧北野小学校は、阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた。全国的に少子化が進み、公立学校の統廃合が繰り返される中、同小学校を取り巻く地区も例外でなく、伝統校も96年に閉校した。一方で、施設存続を望む声が卒業生や地域から多く寄せられ、「神戸のハイカラ文化発祥の地」とされるトアロードの復権を願い、具体的な活用の検討が始まった。そして98年7月、「北野工房のまち」としてオープンした。
1日の平均来館者は2200人。21台の収容能力がある観光バス専用駐車場の利用台数は1日平均26台。ルミナリエ期間は満車になることも。北海道から沖縄まで、外国人観光客も大勢訪れる人気施設に瞬く間に成長。03年の暫定活用期間終了後も、恒久施設として新たにスタートした。
テナント入居条件は「人にやさしい」「手作り」「こだわり」「安心」。これらに基づいた様々なこだわりが随所に感じられ、居心地のよい空間を演出している。
1階入り口横には、工房のマイスター達の顔写真が飾られている。1階はワイン、和洋スィーツ、中華、喫茶などグルメ工房が。2階はおし花、ガラス工房、Tシャツ、パール、靴、米ぬか化粧品など職人こだわりのクラフト・ファッション・ビューティー工房で構成されている。地元の神戸っ子にとっても、欲しくなるアイテムが豊富だ。各工房は職人たちのモノづくりのスペースが広く確保されており、来館者がモノづくりの様子を見学できる。
テナント会の田中瑞恵会長
「小さくてもキラリと光る存在であること、あり続けること」を同工房の基本理念に、 ここしかない オンリーワンショップの集積が基本戦略だ。「手作り工房なので、他施設との差別化を図りながらここしかない、ここでしか手に入らないもので充実させたい」と話すのは、北野工房のまちテナント会の田中瑞恵会長。有名ブランドチェーン店でも、通常の店舗になく北野工房のみにあるテーマ商品が中心の構成だ。
学校教室の雰囲気をそのまま活用した市民ギャラリーでは、来館者の想い出づくりに「感動学級」と名付けられた様々な体験教室も開催。田中会長のお店も月1回“おし花教室”を少人数で開催、笑顔いっぱいの場となっている。
2009年の夏休み、多数の応募から抽選で選ばれた約70名の子供たちが「1日キッズマイスター」として、各工房で元気いっぱいにチャレンジした。「もともと小学校なので、子供たちと連動した催しは効果的。今後も継続していきたい」と藤喜美雄テナント会会長代行は手ごたえを感じている。
取材に訪れたのは、1月の三連休明けの小雨降る冷え込んだ平日。それにも関らず、館内は客足が途絶えない。土日は来館が集中し、2009年6月中旬に来館者900万人突破。1000万人突破も目前である。1月23日から2日間、北野工房のまちと神戸セレクションがコラボレーションし、「北野冬の大バザール」を開催。体験工房、ライブ、プレゼント大会などが展開された。「観光客が中心だが、地域のバックアップも大きいので、地域住民も旅行者も楽しめる敷居の低い施設にしたい」と藤会長代行。
明治時代に創建された学校が持つ独特のレトロな雰囲気。校舎の木造床を踏む感触と音が懐かしい。生まれ変わってまもなく12年。北野・トアロード、そして神戸のシンボルとして、今まで以上に注目を集めていきそうだ。
(2010.2月発行)