■須磨寺前商店街(須磨区)(NO.29)

須磨寺前商店街
 1月21日、JR須磨駅前から須磨浦商店街を通って、北東方面へ約10分、なだらかな坂道を歩く。同じように、年配の方々も数多く同じ方向に向かっている。その先には、平安時代初期を起源に持つ全国屈指の古刹・須磨寺と、その門前商店街・須磨寺前商店街が初大師さんの参拝客を待っている。
 源平ゆかりの地として名高く、平敦盛遺愛の青葉の笛、弁慶の鐘、敦盛首塚に義経腰掛の松など、多数の重宝や史跡がある。NHK大河ドラマ「義経」放映時は、大勢押し寄せたようだ。また、松尾芭蕉、正岡子規、山本周五郎らの文学碑が点在している。姫路や大阪方面からの参拝客もあり、観光バスで訪れた旗を持った団体客の姿もある。特に、3月の弘法大師正忌(祥月命日)は、通りが人で埋め尽くされる。
 ”いろは”を発案した弘法大師を奉る須磨寺。山陽電鉄須磨寺駅南に位置し、学問の神様・菅原道真を奉る綱敷天満宮。二つの寺社を結ぶ道は「智慧の道」と呼ばれ、須磨寺駅から北の須磨寺に向かって、須磨寺前商店街が広がる。真紅のノボリが鮮やかだ。
 同商店街周辺では、四季折々様々な催しが展開されている。お花見、七夕祭り、智慧の盆、年越し光の回廊…。春・秋の年2回開催される「楽市」は、約80店の屋台が並ぶ。お客様は姫路や赤穂、茨木からも訪れ、圧倒的な集客を誇っている。
 商店街は参拝客をターゲットにした特色ある喫茶店、和菓子店、お寿司屋さんが集積している。空店舗はわずか1軒で、すぐにも埋まりそうだ。商店街の交差点にはポケットパークが整備されている。須磨寺の所有地を同寺が無償で商店街に貸与し、市が整備して完成した憩いのスポットだ。須磨寺も商店街の組合員であり、商店街活性化やまちづくりに一体となって取り組んでいる。
 須磨寺前商店街は、震災で多くの店舗が全壊してしまったが、3年後には震災前の店舗数に回復した。そして現在、商店街の活性化はもちろん、まちづくりの推進に先導的な役割を担っている。多様な主体が参画して議論が交わされる「須磨のまちを”ざっくばらんに語る会”」は、まもなく90回を数える。また、「NPO法人須磨歴史倶楽部」と連携して、同NPOが復刻した「須磨百首かるた(平安から大正までの須磨を詠んだ和歌百首)」でかるた大会を須磨寺で開催、大きな反響を呼んだ。
 商店街の防犯灯の取替えも検討中だ。「NPO法人しゃらく」と連携しながら、様々な助成制度を活用し、門前町にふさわしい一体感のある装いを目指している。
 一見順風満帆な同商店街だが、須磨寺前商友会の森本桓夫会長は「生鮮食料品店が極めて少なく、毎日の買い物客に直結しない」と危機感を強める。須磨寺前にあった公設市場が07年4月に閉鎖したダメージも少なくないようだ。また、毎月20、21日の”お大師さんの日”などの催事日と、催事日以外の来街者数の大きな差も課題に挙げている。
 市内の商店街と同じく、後継者不足も同様の課題と捉えているが、同商店街の若手商業者が集まり「須磨府(スマップ)」を結成している。森本会長は、同グループの今後の活躍にも大きな期待を寄せている。
 取材に訪れたのは「お大師さんの日」。甘く香ばしいカステラ焼や甘栗、じっくり漬け込んだ冬野菜の漬物、網で焼いている丸いわし、そして御香。境内に向かう参道では、芳醇かつ風情あふれる香りが充満し、活気にあふれている。寒風吹きすさぶ中、酒屋では温かい甘酒が一杯100円で売られている。交差点では警備員が誘導し、商店街はまっすぐ歩けないほどの混雑ぶりで、”おばあちゃんの原宿”巣鴨地蔵通商店街を彷彿とさせる。更なる可能性を感じさせる須磨寺前商店街の実力が、そこに見える。
(2008.2月発行)