■買物と家族と地域社会  (NO.42)
 いつの頃からでしょうか、「買物弱者」という言葉が定着してきています。時には「買物難民」と言われたりしています。経産省によれば全国で600万人で、今後ますます増えるだろうと予想されています。高齢社会の進展が生んだひとつの大きな社会問題です。そのために、政府は、平成22年度補正予算案の一環として買い物弱者対策にかかる事業に対して「地域商業活性化事業費補助金(買物弱者対策支援事業)」を作りました。これは「買物弱者の生活利便性を向上させる事業」を幅広く事業の対象として、補助金を出そうというものです。考えられる事業としては、ミニスーパー事業・共同宅配事業・御用聞きと配達事業・移動販売車事業・買い物支援バス事業などが挙げられています。すでに全国で審査が行われて優先順位が付され、予算内で執行できる事業が決定されるはずです。
 なぜ、買物弱者が生まれるのでしょう。「少子高齢化や過疎化等の社会情勢の大きな変化に伴い、買い物の場所や移動手段などの日常生活に不可欠な機能が弱体化している」からだと経産省は説いています。近所にあった露面店や商店街が無くなった、自転車で行けてた食品スーパーが撤退した、遠くに大型ショッピングセンターはできたけど、車はないしバスは不便で交通費がかさむ、ということなのです。なんだか、以前に触れた「フード・デザート」を彷彿とさせませんか。とくに高齢者で単身世帯などを直撃しているのです。
 かつては、農村部だと3世代、時には4世代家族が普通でしたから、誰かが買い物に行けてたわけです。それが過疎化によって高齢者だけになってしまった。都市部では早くから核家族化が進んでいたので、少子高齢の影響はもっとはっきりと出るはずですが、都市の利便性がそのことを顕在化させなかったのです。しかし、この長引く不況は都市の経済機能を徐々に弱体化させて、日本型の「フード・デザート」状態をあちこちで出現させているのです。
 問題なのは、買物弱者対策支援事業というものがコストがかかり、利益を生まない、いやむしろ事業者の持ち出しになることです。それを補助金で補填しようというのが今回の狙いなのですが、限りある予算なので実施できるところは限定されますし、継続した事業となるためにはさらなる持ち出しが事業者や自治体に求められることになります。すでにいろんな所で行われている「買物バス」もそうですが、採算の取れない事業は税金で補填するしかありません。それでなくても借金まみれの日本ですから、この問題は将来議論の種になりそうです。

吉野家移動販売車
 都市生活の脆弱性が買物弱者問題に端的に表れているとしたら、私たちが考えないといけないのは、家族のあり方や家族生活を支える地域社会という問題です。テレビのコマーシャルではありませんが、「人を助けるのは人しかいない」のです。あの大震災を体験した地域だからこそ言える地域コミュニティの大切さを今一度噛みしめたいものです。
(2011.2月発行)