■「身の丈」再開発  (NO.32)

東大通り(盛岡市)
 国土交通省が出した『身の丈にあった再開発 ―事例集―』という冊子があります。全国で「身の丈にあった」再開発16ヶ所の事例を写真入りで紹介したものです。「身の丈にあった再開発」というのは、地域の床需要や周辺の市街地に配慮して計画された、その地域にふさわしい「規模」の再開発のことです。かつてのように高容積の建物を建てむやみに「保留床」を多くして、その売却益で開発費を調達するというものではなく、空き床のリスクを回避して、地域の実情に合った低容積の再開発事業です。経済成長が右肩上がりの時代ならともかく、景気の低迷が続く今の時代ならではの事業というわけです。
 この時代にまだ国交省お得意のハードな再開発事業?と思われるかもしれませんが、中心市街地の衰退が著しい地方都市では、まだまだ、というか新たに必要な事業なのです。例えば、駅前にあった市民病院が老朽化と設備の最新化のために郊外へ移転する。同じく駅前の食料品スーパーが顧客の減少で閉店してしまい、駅前商店街は人の流れが途絶えて空き店舗が激増する。こんな状況下では、いくら商店街がソフト事業を展開しても焼け石に水だったりします。 それでも、市街地の衰退を放っておくことはできません。残るのは「まちの骨格」を大きく変える、つまりまちを「創り変える」ことです。商売を続けたい人は新しい店舗で、辞めたい人は権利を売ってハッピーリタイアする。低容積で回遊性のある空間を創り、商圏に合ったテナントミックスを実現する。それをなるべくお金をかけずにやってしまおう、というのが「身の丈にあった再開発」なのです。

近江いちば館(金沢市)
 例えば、金沢市の「近江いちば館」。全国的に有名なあの「近江町市場」の再生を目的とした再開発で、従前の営業者64件中で51件が再入居して市場の存続を実現しています。当初は、やはりオフィスやホテルなどの高層ビルを計画していましたが、民間資本の参加が見込めずに低容積に変更したのです。その代わりに地域で必要な都市福利施設を導入し、金沢市にまちづくり交付金を活用して取得してもらったのです。こうした公益施設を積極的に整備するのも身の丈再開発の特徴です。
 この金沢市の事例は、身の丈といっても敷地面積が4800m2を超えるまだ規模の大きな再開発ですが、盛岡市の東大通り地区のように敷地面積が926m2という小さなものもあります。ここは長屋形式で商店街らしさを残しながら、防災や都市景観にも配慮した「優良建築物等整備事業」として身の丈再開発を実現しています。
 もちろん、再開発ですから権利者の権利調整には時間がかかりますし、事業の調整にも多くの時間が必要です。逆に言うと、時間がかかるから決断は早めにした方がいいということになります。市場や商店街で建て直しをするか、現在の空き店舗事業やイベント事業を継続させながら新たな再生策を模索しようとするか、選択肢はいくつかありますが、建て直しがすでに選択肢のひとつになっているなら、どこかの時点でするのかしないのかの決断を迫られることになります。その後で、権利者の合意形成や各種事業や補助金・交付金との連携を考えていると、ますます時間が足らなくなります。市場・商店街の建て直しがその地域の再開発を誘導できるかどうか、どんな事業との連携が可能か、国や地方のどんな制度を利用できるのか、今から勉強しておくことが不可欠です。そのために相談できる専門家もたくさんいます。
 必要なことは、まだ組織的な体力があるうちに再生のためのいろいろな可能性を探り、そのための準備を怠らないことです。「身の丈再開発」もそのひとつだと思います。
(2010.4月発行)