■「商い」を考える その2  (NO.18)
 問題‥正札販売(定価販売)、商品の自由閲覧、返品返金制とともに、最初の近代商業であるデパートメント・ストアでブシコーが実践したのは何でしょう?
(1)屋上遊園地 (2)大食堂 (3)地下食品売り場 (4)下足預かり廃止 (5)薄利多売
 正解は(5)の薄利多売です。
 (1)から(4)はいずれもわが国の百貨店が実現したものです。ヨーロッパや米国のデパートとは異なる特徴ではありますが、もっと商いに関わる根幹的なことです。それが「薄利多売」なんですね。利は薄くして回転で勝負する。それが近代商業の要なのです。そのためには原価管理をし、売れるための価格設定を商品ごとにしなければなりません。つまり、デパートメント・ストアというのはデパートメント=商品部門別の管理をおこなう店を意味しているのです。
 もちろん、薄利多売といっても、当時のデパートは上流階級相手の商売で主には贅沢品を扱っていましたから、例えば現在のスーパーでの薄利多売をイメージすると間違うことになります。低価格販売が小売商業の武器となるのは業態が多様化してくるもう少し後のことです。今でもデパートには高級品のイメージがありますが、取扱品目からみると一部のスーパーブランドは別にしても随分と高級品は減ってきています。それでも高級というイメージを残せているのはマーケティング上の成果と言えるでしょう。
 さて、この薄利多売、実はもうひとつ重要なことを含んでいます。利益は抑えて回転で勝負するということは回転数が命。回転数とはすなわち商品の数ですから、すぐに売り切れになると利は稼げない。したがって、常に十分な在庫を持っていないといけないことになるわけです。しかも多様な消費者に合わせた在庫が必要ですから、薄利多売を実現するためには多様な商品の取り揃え、つまり品揃えの豊富さが不可欠だということです。薄利多売とそれを支える品揃えこそが近代小売商業の要であり命なのです。
 この薄利多売を支える品揃えは、しかし、ロスも産みます。正しい需要予測はなかなか難しいからです。そこに商人の醍醐味もあるわけで、ロスをいかに少なくするのかが商売の浮沈を握っているのです。品揃えを絞り込み、徹底した在庫管理と迅速な商品開発でこのロスを抑え込もうとしているのが、コンビニエンス・ストアという業態です。通常のスーパーなら何万という商品アイテムを3000ぐらいに絞り、売り切れるとその日の内に補充し、売れない商品はすぐに新しい商品へと入れ替えるやり方は普通のお店では真似できませんが、売れる商品を発見・発掘し、ユニークな品揃えで勝負することは十二分に可能です。
 今の不況はそう言う意味では逆にチャンスです。財布の紐が固くなっている消費者が思わず紐をゆるめてしまうような品揃えを展開する。そんなチャレンジャブルな商人を期待したいものです。
(2009.2月発行)