■「奈良もちいどのセンター街協同組合」(奈良県)(NO.10)

商店街アーケード
〜歴史ある奈良のまちの商店街〜
 近鉄奈良駅から続く商店街を抜けて5分ほど歩くとたどりつくのが「もちいどのセンター街」。南北に延びる約250mに100店舗強の商店が並んでいる。
 興福寺や猿沢池、奈良公園に近く、国内外からたくさんの観光客が訪れる奈良の中心地に立地している。アーケードを抜けた先には、奈良の古い街並の佇まいを残した「ならまち」があり、女性に人気の街歩きスポットとなっている。
 「もちいどの」を漢字表記にすると「餅飯殿」。千百年余り前、大峰山の高僧が大蛇退治に出かけた際、「餅」と「飯」を持って行き無事退治に成功。お供をしたこの町の若者七人に「餅飯殿」の名前を与えたという伝説が地名の由来の一つだそうだ。※諸説あり

〜商店街の衰退と復活のきっかけ〜
 奈良で最も歴史のある商店街の一つで、明治時代から現在まで営業をしている店もあり、戦前戦後と大変賑わってきたのだが、近くにあった奈良市役所が1978年(昭和53年)に移転したことをきっかけに通行量が激減。それに伴い商店街の空き店舗が少しずつ増加していった。
 通行量が最も落ち込んでいた2004年(平成16年)。空き店舗となっていたパチンコ店跡地が競売(2650万円)に出されていることがわかった。商店街の臨時総会を開催して「これ以上空き店舗を増やしてはいけない。(当時、商店街の約1割が空き店舗になっていた)」と一致団結し、商店街での購入が決定した。

〜夢CUBEの誕生〜
 地域の金融機関から長期借り入れの協力が得られたこともあり、無事この物件を取得できた。当初は商店街のイベントスペースとして使用していたが、より活用したいという思いから、2年間の話し合いを経て「起業家向け施設」として生まれ変わることとなった。
 国(1/2)と市(1/4)の補助を受けて資金を用意。奈良のこの場所で商売を始めたいと思う若者が果たしているのだろうかという商店街側の心配をよそに、10区画(3〜4坪/区画、賃料3〜4万円、共益費5千円)の募集になんと40件の応募があったという。
 書類審査と面接を経て選ばれた若手起業家10名が1期生として、雑貨店やパン屋、銅製品などの店舗を開業。2007年(平成19年)4月に「夢CUBE」がオープンした。
 このような起業家育成施設は、1年期限で卒業の場合が多いが、「1年では商売の継続を見極められない」という商店街の考えから、ここでは最大3年間営業を継続することができる。その間に顧客を増やし、地域に根付くことで、卒業生の約半数が同商店街や近隣の空き店舗を借りて独立をしている。

〜商店街の復活〜
 「夢CUBE」がオープンして若手起業家が商売を始めたことを機に、商店街の通行量は劇的に回復し、オープンの翌年には最も減少した頃の1・3倍まで復活。現在もその数値を維持している。
 これをきっかけにして他の空き店舗にも新規出店があり、2008年(平成20年)に食品スーパーがオープン。以前あったスーパーが閉店して以降、8年間食品スーパーが無かったため、地域住民に大変喜ばれている。
 「夢CUBE」の起業家は現在3期生。起業家が集まり活躍できるエリアとして広く認知されるようになったため、空き区画を募集すると多数の応募がある。そのほとんどは20代〜40代の女性たち。これからますますの発展の可能性が広がっている。

夢CUBE内観

視察を終えて
 松重重博理事長に、商店街の活性化のために大事なことは何かとお聞きしたところ「このままではいけないと思ったその時に、商店街の皆で協力して動くこと」という力強いお言葉をいただいた。
【参加された方々の感想】
 「活用できる物件があり、組合員や周辺の企業などの理解があって夢CUBEの開業が実現したのだと思う。その環境がうらやましい。是非自分の商店街でも挑戦してみたい」
 「若手商業者が一人前になるまで最大3年待つという方針は英断だと思う。商店街のその思いを汲んで、入店している若手起業家たちは、是非この商店街(もしくは近隣)で独立しようと思うのだろう」
(2015.5月発行)